カナダ人が将来 住みたい憧れの町 ケロウナで・・・
疲れた心を癒しませんか・・・
これから先の人生に必要なヒントとエネルギーが必ず得られるはずです


  

  

  

滝澤のカナダ移住&起業への道のり

 <第181話> アイスワイン・フェスティバル奮闘記 その15
「さて、それではミーティングはこれで終わりにしよう! 各自の持ち場についてくれ!」

マイケルの静かな声で、ウエイトレス、ウエイター、キッチンスタッフが颯爽と決められたポジションに移動していきました。

「さあ! それじゃあ、テイスティングさせてもらおうかな!」

マイケルはそう言うと、カウンターからワイングラスを3つ取り出してきました。
白ワインのバッカス
赤ワインのガメノアール
赤アイスワインのピノノアール

私はワインオープナーでコルクを抜き取り、それらを順番にグラスに注ぎました。

「これがバッカスか・・・ ずいぶん昔に飲んだことがあるよ。でも今バッカスの白ワインは見かけなくなったよなあ・・・」
そういうとマイケルは慎重に香りを確かめながら喉の奥にバッカスを流し込みました。

「次がガメイだね。 これは過去に飲んだ記憶がないね」
色を確かめ、香りを楽しむように、そしてバッカス同様に喉の奥に流れていきました。

「そして・・・ 赤のアイスワインか! とても難しいワインだね」
マイケルは一口、二口、舐めるように慎重にアイスワインの味を確かめました。

「素晴らしい! どれもこれも全てがパーフェクトさ!」

そして、マイケルは私とビクターに細かく指示を与えてきました。

白ワイン ピノブランは、サーモン主体の料理に。
白ワイン リースリングは、チーズと野菜のメニューに。
赤ワイン ピノノアールは、ラム肉の料理に。
赤ワイン ガメノアールは、ちょっと冒険してトマトとコンソメのパイ料理に。
白ワイン バッカスは、ワインを主役にするためにチーズ料理に。
赤アイスワインは、もちろん最後のデザートに。

マイケルは全ての料理にカップリングするワインをこのように提案し、私とビクターはもちろんこれに同意しました。

「よし! 今晩は最高のワインディナーになるよ! がんばろう! そして楽しもう!」

マイケルは私とビクター、交互に握手を交わしてくれました。


いよいよ始まるんだ・・・
私はこのとき、ようやく緊張感が昂ってきたのです。




 <第182話> アイスワイン・フェスティバル奮闘記 その16
開場時間を待ちきれないかのように、この夜のワインフェスティバル特別ディナーを楽しみにしていたお客さんが次々とテーブルに流れ込んで行きました。
こうしたとき、ごく自然に日本人の姿を探すものなのですが、想像したとおり会場に埋め尽くされた来乗客の中に日本人らしき東洋人の姿はまったく見られませんでした。

様々にドレスアップをした欧米系の人たち。
会場がスキーリゾートですから、カジュアルな服装の人もいるだろうと思っていましたが、ものの見事にその私の予想は外れたのでした。かなり粧し込んでいる初老のご夫婦の姿が多く、この風景だけ切り取ればまるでハリウッド映画のワンシーンのように見えなくもありませんでした。

「ようこそ! 皆さんと一緒に今夜を楽しむ私たちメンバーを紹介させてください!」

マイケルは明るく響く声で、来場者に向って伝え始めました。

・私の右腕として調理を担当するシェフの▲▲▲です
・盛りつけとデザートを担当するシェフの■■■です
・皆さんのサーブをたんとするチーフの◎◎◎です
・〜〜〜〜〜
・〜〜〜〜〜
・〜〜〜〜〜
・〜〜〜〜〜


という具合に、マイケルはスムーズかつ丁寧に一人一人のメンバーを紹介していきました。

「私たちが作る料理は最高の内容です。そして、その料理にカップリングするワインも皆様のために最高のワイナリーを選択しました! セントヒューバータス・エステイトワイナリーのお二人です!」

マイケルがそう言うと、来場者の視線が一斉に私とビクターに注がれました。

滅多なことでは緊張しない私ですが、さすがにこのときは体が固くなっていく感覚を得たのでした。
来場者の視線が浴びせられ、ほんの数秒の間を置いてから拍手の音が天井に届くほどに響き渡ったのでした。

「さあ!それでは、冬のワインフェスティバルを始めさせていただきます!」

マイケルの締めくくりの言葉が合図になり、キッチンのシェフたち、サービスを担当するウエイトレスたちも一斉に持ち場に移動しました。

私とビクターは会場の中央付近にあるバーカウンターに陣取りました。
料理の順番に合わせるワインをカウンターに並べ、トップバッターのピノブランのコルクを抜き始めたのでした。
一度抜いたコルクを再び軽くボトルの開口に差し込み、準備を整えたのです。

「いよいよ始まるんだな。こりゃ失敗できないぞ」

私の表情は緊張の面持ちで一杯だったと思います。その私にビクターが空のワイングラスを差し出してきました。

「最初に自分で飲んでみると良いよ」
「???」

意味を理解できなかった私の目の前に、空のグラスを置いたビクターは、
「緊張しているときは飲んでしまった方が良い!」

そう言うと、彼は無造作に私の目の前に置かれた空のグラスにピノブランの透明な液体を注いだのでした。




 <第183話> アイスワイン・フェスティバル奮闘記 その17
「ありがとう!ビクター」

私は心地よく冷えたピノブランを多めに口に含み飲み干しました。
はっきりとした強さの後に、優しく静かに消えて行くケロウナのワインの味わいでした。この味をお客さんたちは必ず楽しんでくれるはずだという自信が自然に湧いてきました。

お客さんの目の前から姿を消したように思えたサービススタッフたちが一斉に皿を両手に何枚も重ね持つようにして登場してきました。彼らが持つ皿の上には一品目の料理が色合い鮮やかに乗せられていたのです。

その皿がお客さんの目の前に一枚ずつ丁寧に、そしてスピーディーに置かれて行ったことを確認した私とビクターは、すかさずトップバッターのピノブランをお客さんの背中から右手外側に置かれたワイングラスに注いで行きました。

ワインフェスティバルの特別ディナーの最初を飾る料理は、カナダのイメージを代表するサーモン料理でした。

スモークサーモンのタルタルソース添え
北米インディアンのサーモンの薫製
北欧風生サーモンの酢漬け

真っ白な鏡のようなお皿の上に、ピンクが鮮やかなサーモン、琥珀色に輝くサーモン、透き通るかのような瑞々しさを讃えたサーモンが仲良く並んでいました。

次から次へ、私はお客さんのグラスに白ワイン・ピノブランを注ぎながら、視線を3種類のサーモンに移しました。

「なるほど・・・ これは確かに料理とワインのカップリングとしては最高だろうな」

お客さんのグラスに注ぐワインの味は、完璧に熟知しているので、サーモン料理の味については想像の世界ですが、しかし、私は両者のカップリングに間違いが無いことを確信していました。

「おお! 美味しい!」
「素晴らしい!」
「感動的だわ!」

最初に料理をサーブされ、ワインを注がれたテーブルから、次々に歓声が上がり始めました。

「このサーモンの薫製とこの白ワインは絶妙だな」
「サーモンの味の深さを際立たせる強さが、この白ワインにはあるよ!」

さすがにワインフェスティバルに集まるだけあって、みなさん真剣に料理を楽しみながら、ワインの味をしっかり確認していました。大勢の来場者で埋め尽くされたそれぞれのテーブルは、笑い声が弾み、人々が語らうボルテージがゆっくりと上がっていくのでした。



この特別ディナーの様子 http://shop-canada.com/hpgen/HPB/entries/17.html



 <第184話> アイスワイン・フェスティバル奮闘記 その18
全てのテーブルに着席したお客さんたちは、この日のために作られたフレンチのフルコースと、カップリングされるワインが生み出すハーモニーを流れ行く時間といっしょにゆっくりと楽しまれていました。

流れ行く時間をゆっくりと楽しむわけですから、そこにはまったく焦りも急ぎもありません。料理をサーブするスタッフ達も無駄の無い動きでありなら、しかし、誰一人として慌ただしさがありません。
その空間には、贅沢なほどゆっくりと流れる時間が漂っていたのです。

せっかちな日本人の典型のような私は、スタート当初はそのリズムに体が馴染みませんでした。

「君、もっとゆっくりで良いんだよ!」

初老の男性がメガネ越しに私にウインクしてみせました。

「あっ!」

そのとき、私はようやく気がついたのです。
日本の飲食ビジネスというのは、客単価を上げる事と、回転率を上げる事に血眼になっています。オーダーを受けたら可能な限り早く調理し、調理された料理は小走りにスタッフがテーブルに運びます。

お客も店側も、「急げ!」「急げ!」のオンパレードです。

ところが、ワインフェスティバルのディナーは、それと全く反対の世界だったのです。

「ゆっくりと流れる時間を楽しむ」

今の日本には見られない空間でした。

気がつくと、私もそうした「ゆっくりと流れる時間」の中に自然に同化していたのです。お客さんは目の前に運ばれた料理に対して感動の声を上げながら、しばらくの間、じっくりと料理を見ています。

「目で楽しむ」 という時間です。
人によってはわずか数秒ですし、1分2分という人もいます。その「目で楽しむ」時間が過ぎた頃を見計らったタイミングでカップリングされるワインをグラスに注ぐのです。
お客さんは、料理を目で楽しんだ後、カップリングされるワインを目で楽しみます。目で楽しむ時間が終わると、舌で楽しむ時間に移るのです。

私はこうしたタイミングがようやく飲み込めました。

とかく、「早い」ということを日本では良いことだと受け止められます。「遅い」ことはダメなことであり、従って私たち日本人は何もかも急いでしまいます。

しかし、「遅い」ということと、「ゆっくり」ということは全く違う次元の話なのだということを私はこのとき、強烈に体験したのでした。




 <第185話> アイスワイン・フェスティバル奮闘記 その19
アイスワイン・フェスティバルの特別ディナーもいよいよ佳境に迫ってきました。デザートにカップリングされるのは、この日のために満を持して用意した「赤アイスワイン」でした。

「ピノノアールのアイスワインです」

そう言いながら、お客さんの右手側に置かれた小さめのワイングラスに赤アイスワインを注ぎました。

「ん? 今何って言ったの? ピノノアール??」
「はい、このアイスワインはピノノアールです」
「ほほう! ということは赤の品種から作られたアイスワインということか」
「はい、そうです」
「それは珍しい! 赤のアイスワインは初めてだよ!」

さすがにこうしたディナーに集まるお客さんのレベルは、ワインの基礎知識を持ち合わせています。ブドウの品種で、それが白なのか?赤なのか?という基本的なことを分かっているのです。

赤のアイスワインと言っても、普通の赤ワインのように赤黒い色をしている訳ではありません。薄いオレンジ色のカラーです。そうなる意味をお客さんに説明しました。

「なるほど。赤の色を付けてしまうとタンニンが濃くなるから甘くなくなってしまうのか。確かにそうだ。赤ブドウの香りを引き出しながら、アイスワイン本来の甘さも保たなければならない・・・ それはなかなか難しい技術だね」

こうした声をたくさんのお客さんから頂戴しました。

アイスワインというのは、普通は白品種で作ることがセオリーです。従って赤品種でアイスワインを作るということは言わば邪道な領域なのですが、それを分かっていてあえてチャレンジできることがカナダのワイン産業の魅力でもあるのです。

「ふう〜〜〜〜〜、やっとこれで終了だね」

ビクターが少々疲れ気味の表情で私に話しかけてきました。

「無事に終わって良かったよ!」
「そうだね、トラブルもなく、ワインを楽しんでもらえたようで何よりだね」

開場し、お客さんがテーブルに着席してから既に3時間が経過していました。
大役を終えた安堵感から、急激に空腹感が襲ってきました。

「お腹すいたなあ・・・」
「そうだなあ・・・ まだ夕飯食べてないよなあ・・・」
「これが終わったら、近くのレストランに行って何か食べよう」
「そうだね、そうしよう。ハンバーガーで良いよ」

そんな会話を私とビクターは小声で続けていました。

「さあ! スタッフの食事を始めるよ!」

レストランのスタッフが、私とビクターに笑顔で語りかけてきました。

「スタッフの食事?」
「何それ?」
「ひょっとして・・・ 僕たちも食べられるの???」




 <第186話> アイスワイン・フェスティバル奮闘記 その20
こんなことになるなんて・・・
全くの想像外でした。

テーブルについているお客さんたちは、デザートを楽しみながら、談笑にふけっていました。あちこちから大きな笑い声が沸き立っていました。

レストランのフロアの一角に、誰も使っていない丸テーブルがあり、そこに次々と料理が運ばれてきました。その料理の全てに見覚えがありました。さきほどまで、お客さんにサーブされていた料理と全く同じものが、同じお皿に乗せられて次々と丸いテーブルの上に並べられていったのです。

「みんな!おつかれさま! さあ、これからは僕たちの時間だよ」
リーダー格のウエイターがそう叫ぶと、ウエイター、ウエイトレスが一斉に歓声を上げ、テーブルの上に置かれた料理に向かっていきました。

私とビクターは呆気にとられながらも、椅子に腰掛けて、料理が乗った皿を引き寄せ、そして迷うことなく食べ始めたのでした。

「うっ! これは美味しい!」

この丸テーブルの上では、前菜もスープもメインも、そしてデザートも、全てが同時スタートでしたから、決まりきった順番はありません。それぞれが遠慮なく好きな料理に手を付けていくのでした。

どれもこれも、素晴らしい味わいでした。


「やあ、今日はお疲れさま!」

口いっぱいに詰め込みながら、ほおばっていた私の後から声を変えてくる人がいました。

「んっ???」

振り向くと、眼鏡をかけた初老の男性が立っていました。間違いなくこの夜のディナーを楽しまれたお客さんです。私は大慌てで席を立とうとしました。すかさず初老の男性の大きな手が私の肩を上から軽く押さえ込んだのでした。

「いいから!いいから! 君はここに座って!」

初老の男性はそう言うと、隣のテーブルからワインを運んできました。

「君、白かい? それとも赤が良いのかな?」
「あっ、はい、ええと・・・ 白でお願いします」

私のリクエストを聞いた初老の男性は、にこやかな表情を作りながら、私のグラスにワインを注いでくれたのでした。
そして、初老の男性は軽く咳払いをすると、

「この白ワインは・・・ですね、、、 ええと、どこのワイナリーだったかな?」
「セントヒューバータスですが・・・」
「そう! セントヒューバータスだね! それで・・・ この白ワインは、、、何だったっけ?」

初老の男性と同じテーブルでディナーを楽しんでいた友人たちが一斉に彼を冷やかし始めました。

「おーーい! どうした? しっかり説明しろよ!」
そして会場はさらに大きな笑い声で包まれていったのです。




 <第187話> アイスワイン・フェスティバル奮闘記 その21
初老の男性は、照れながら私に向かって、

「君、悪いけれどこのワインのことを私に教えてくれないか?」
「ええ、わかりました。この白ワインは・・・」

私はこの白ワインの醸造元のことや、味わいの特徴を初老の男性に説明をしました。うん、うん、と聞いていた初老の男性が、再び大きく咳払いをしました。彼の友人たちは、先ほどよりも彼に興味深い視線を向けました。

「お客様、本日のこの白ワインはですね、、、、、、」

初老の男性は見事なまでに私が説明した通りのことを同じように、私に説明してくれたのです。

「どうだった? この説明で合っているかい?」

初老の男性は大きな笑顔で私に問いかけてきました。

「はい、完璧でしたよ!」

私がそう答えると、初老の男性はワインボトルを真上にかざし、少し離れたテーブルに陣取っていた友人たちに向かい、「どうだ!」とばかりにおどけてみせました。そして初老の男性は、次々にウエイターやウエイトレスに声をかけ、ワインの説明を施しながら、うやうやしく彼らのグラスにワインを注いでいったのです。

「私たちは十分楽しんだよ! 今日は君たちのおかげで本当に楽しいディナーになった! さあ、これからは君たちが楽しむ番だ! 今度は僕が君たちにワインをサーブしてあげよう!」

まるで攻守交代のごとく、もてなす側ともてなされる側が入れ替わるがごとく、これまで客席に座っていたお客さんたちが一斉に私たちの丸テーブルの周りに集まり、思い思いにワインを注いでくれたのでした。

「ええと・・・? このワインは、、、何だったっけ? ま、いいか! とにかく美味しいワインだよ! どんどん飲んでくれ!」

熊のように大柄な男性がワインボトルをつかみながら、私たち会場のスタッフの周りを忙しく移動しながら、次から次へとワインを注いでいったのです。

丸テーブルに座っているのは、先ほどまで料理を運んでいたウエイトレスたちとウエイターたち、そしてワインをサーブしていた私たちワイナリーの関係者でした。その周りを取り囲むように、先ほどまでお客さんとして料理やワインを楽しんでいた人たちが、私たちの真似をするかのように、ワインをサーブするのでした。

こうした自然な振る舞いに私は驚きながら、痛く感動したのは言うまでもありません。何もかもを日本と比較する必要はありませんが、しかし、どうしても比較してしまうのです。

「日本ではこんなことあり得ない・・・」 と。

高級なディナーレストランになればなるほど、店側はお客さんを丁重に迎えます。けっしてミスは許されない緊迫した雰囲気が漂っているのが普通です。一方のお客は、お客としての権威を保ちながら、サービスを施す店側と明確な線を敷いています。

そこには、店側とお客という絶対的な不文律があるものなのです。日本ではそれが普通です。しかし、ひとたび外国へ出ると、そうではない世界が広がっていることをこの日、私は体験したのです。初めてのことでした。この夜のお客たちが見せてくれたごく自然な立ち居振る舞いというのは、素晴らしく気の利いた大人のおもてなしだったと思います。

カナダは素晴らしい国です。日本も素晴らしい国ですが、日本では体験できない世界がカナダには様々な姿で見受けられます。この日、私が初めて経験することができた、ワインディナーでお客さんにワインをサーブするという場で、これまでに経験したことの無い世界を垣間みました。とかく、お客至上主義とも言えるほど過度なくらいお客に神経を遣い続ける日本のサービスと異なり、同じ空間にいる者同士として、お互いに尊重し合いながら、相手を敬い、そして同じように楽しみたいという姿勢を普通に見せてくれるカナダという国を、私は改めて好きになったと思いました。




 <第188話> アイスワイン・フェスティバル奮闘記 その22
この夜のワインディナーが始まってから、時間はすでに3時間を過ぎていました。しかし、ディナーを楽しんだお客さんたちは、誰一人として会場から去ろうとしていないようでした。

考えてみれば、ここは真冬のスキーリゾートですから、みなさんリゾート内のホテルに宿泊されている訳です。
ということは、この夜、彼らが帰るところは自分の家ではなく、ホテルの部屋です。
カナダのリゾートらしいホテルの部屋とは言いながら、やはりホテルの1室に閉じこもって夜を過ごすよりも、このレストランの会場で友人や知人たちと、最後まで楽しく時間を過ごしたいと思う気持ちは容易に理解できます。

さすがにワインフェスティバルの特別ディナーだけあって、会場に運ばれたワインはかなり余裕がありました。
出席者数にあわせて、ワイナリー側はワインを用意しますが、万が一足らなくなった、などということはあってはいけませんから、念には念を入れて多めにワインを持ってきていました。

ですから、すでにディナーは最後のデザートまで完璧に終了したものの、しかしワインはまだ相当数残っていたのでした。

ホテルの部屋に戻るよりも、ここで皆と楽しくワインを飲んでいたい! と希望する彼らが、そのワインの存在を見逃すはずがありませんでした。

「まだまだワインはたくさんあるからなあ!」
「さすがはワインフェスティバルだ!」
「さあ、飲もう!」

もはや、格式の高いワインディナーから一変して、「真冬の酒盛り大会」になりつつありました。

その時でした!
レストランのフロアいっぱいに、高音質のダンスミュージックが流れ始めました。

私の世代には古めかしく感じられるダンスミュージックでしたが、世代的にこの夜のお客さんたちに合致した選曲でした。

「OH〜〜〜〜〜!」

こういう時の、欧米人というのは、本当にすごいなあ・・・と思います。

「年甲斐もなく恥ずかしい・・・」

と思われがちな日本人と異なり、60代、70代の男性も女性も、大はしゃぎで踊りまくるのです。

ワインディナーということだけあって、参加されたお客さんたちの年代は比較的高めでした。
ともすれば、私の両親と同世代のカナダの人たちが、パワー全開で踊りまくるのですから、ほんとうにびっくりしました。

「びっくり」と言えば、この夜は、実に様々な種類の「びっくり」に遭遇したように思います。
カナダの文化の中では普通のことかもしれませんが、日本からカナダに移住した私にとってみれば、驚きの連続が数々起こったとても貴重な夜でした。




 <第189話> アイスワイン・フェスティバル奮闘記 その23
サンピークス・スキーリゾートで開催された、オカナガン・アイスワイン・フェスティバルは無事に終了しました。
私にとっても、初めての参加だったことはもちろんですが、そう簡単には経験できないことを短い期間の中で集中的に教え込まれたような気がします。

ワインの説明のとき、最初は頭の中で丸暗記していた英文を、まるで壊れたテープレコーダーのように繰り返すだけでしたが、だんだんとコツがつかめてきて、またお客さんとの呼吸のタイミングがわかってくると、適度にアドリブを加えながら、直接ワインを楽しむお客さんに接することができたというのは、本当に貴重な経験でした。

学生時代、日本で数々の飲食業でのアルバイト経験が豊富な私ですから、そもそも接客業は向いています。しかし、日本で行うこととカナダで行うことでは当然違うことはたくさんあります。

カナダに移住してからというもの、日本人に対して日本語での接客は日々の仕事でしたが、日本人以外の人たちに対して英語で接客するというのは、しかもこれだけの長時間に渡って接客し続けるというのは初めてのことでした。

日本語で説明するよりも、英語で説明するほうが何倍も神経を遣い、そして疲れる・・・

そのように思っていましたが、終わってみれば案外そうでもありませんでした。
間違いが許されない大きな契約事なら別ですが、要するにワインの説明をして、ワインを美味しく飲んでいただき、この日のために用意された特別ディナーを味わってもらい、終始楽しく過ごすことができれば良いわけです。

そこには、難しい英語の言い回しや、単語などは必要ありません。
精一杯の笑顔と、伝えられるだけの自分の言葉さえあれば、周りはそれを受け入れてくれます。

カナダという国で暮らす人々は、どうやら日本で暮らす日本人よりも、懐が深いようです。

それは何故なのだろう?

前々から、そのような疑問を感じていた私ですが、この日の夜、多くの見知らぬカナダ人の人たちと長時間いっしょに過ごしながら、なんとなくその疑問が解けたような気がしました。

それは「立場対等」ということです。

カナダでは、売る側も買う側も、つまりお客の側も、お客をもてなす側も、基本的に相手を尊重するという姿勢があります。
これは良い表現をするなら「立場対等」ということです。
決して、売り手が買い手にへりくだったり、ぺこぺこしません。
お互いが普通であろうとしているだけなのです。

日本では、お客さんをまるで「神様」のごとく丁重に扱います。
ちなみに、「客」という英語はありますが、「お客様」という英語はありません。

お客至上主義に陥ってしまった日本の文化と、カナダの立場対等でいようと努力する文化とでは、ここに大きな違いがあり、そしてその違いから生じるものが、私たち個人個人が感じる「違い」なのだろうと思います。

それをどこまで自然な形で受け入れ、納得し、さらには体得できるか?ということが、海外生活をする上で必要なことなのだろうと思います。

いろいろな驚き、発見がありながら、無事にアイスワイン・フェスティバルの会場となったサンピークス・スキーリゾートを、その翌日に出発した私とビクターは、カムループスを経由し、一路ケロウナへ向かったのでした。




 <第190話> カナダ移住5年を経て
2004年早春。
カナダ移住生活は5年を過ぎ6年目に突入しました。
このころになると、仕事と生活のパターンがかなり落ち着いてきたように思います。

仕事の主体は、ケロウナで作られているワインの日本輸出と、そのワインの日本での販売業務が私の表看板として定着していました。
また、日本から来られるお客さんも年々増え続けていたため、2004年は春、夏、秋、冬、どの季節も必ずお客さんからの依頼が入るようになっていました。

日本ではケロウナという町の存在はほとんど知られていません。
いったいどうやって集客作業をするのか?というと、まずはホームページでした。家にいるときは四六時中、パソコンに向ってホームページの手直しに夢中になっていたのです。

ケロウナという町は、どこを撮影してもまるで絵はがきのような風景です。デジカメで撮影した季節の写真をホームページに掲載していったのですが、このとき、注意すべき点があります。
デジカメで撮影した写真なら、なんでも使えるという訳ではありません。良い写真とそうでもな写真とに大別されるのです。この作業は大変でしたが日常の楽しみになっていました。

何気ない散歩の合間に目の前の風景を撮影します。自宅に戻りパソコンで1枚1枚確認します。だいたい50枚撮影して、使える写真は2〜3枚です。
ごく稀に、「これは!」と思う良い写真が撮れているときがあります。そのときは、なんだかケロウナの風景の中から大発見を切り抜いたような嬉しい気持ちいっぱいで、すぐにHPに掲載しました。その写真に対する思いや感想など、できるだけ丁寧にコメントを加える事を繰り返しているうちに、ホームページ内に掲載したケロウナの写真はかなりな枚数に増えていったのです。

この効果は確実に集客につながりました。
また、私は春と秋にそれぞれ2週間の出張をした際に、東京でセミナーを開催していました。
最初は、ワーキングホリデー希望者向けのセミナーでしたが、やがて間口を広げて「海外生活」というテーマでセミナーを実施していました。カナダに移住している私が講師を勤めるセミナーですから、集まる方々は基本的にカナダに興味のある方がほとんどでした。

カナダに何度も旅行に来られている経験者が多かったのですが、さすがにケロウナを知っている人は少数でした。

「ケロウナってどこ?」
「ケロウナってどんな町?」

こうした興味津々の方たちが多かったため、結果としてケロウナに対する興味を沸き立てることができました。セミナー終了後は決まって名刺交換を求められ、

「一度、ケロウナに行きたいです!」

という感想を頂くようになり、結果としてケロウナへの集客のための営業活動になっていたのです。

こうして、わざわざケロウナに来られる方々は、一般的な観光目的とは異なり、海外生活に関する相談が主な目的だったのです。日中の時間を利用して、ケロウナの町を案内し、ワイナリーを訪問し、あるいはゴルフをする場合もありますが、何と言ってもお客さんたちの目当ては、「相談」だったのです。

海外への移住、永住ビザの申請、海外での起業、ロングステイ、不動産購入などなど、そうした相談が続々と増えてくことを感じながら、今後は単なる観光目当てということよりも、「相談」業務を通したケロウナでの受け入れをすべきだな、という手応えを掴んだのでした。

さっそくホームページに、それに応じたコンテンツを作成しました。日本に出張するたびに連続的にセミナーで直接多くの方々とお会いする機会を作るようにしました。それに呼応するように、相談依頼を携えた方々から、ケロウナ来訪の予約が入るようになっていったのです。



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